パラグアイSV

II パラグアイ各地で行ったプロジェクト報告

① 伝統工芸品ニャンドゥティの生産者への
インタビュー

入山都香

ここでは先輩たちから引き継がれている活動を紹介する。パラグアイには「ニャンドゥティ」という伝統工芸品があり、イタグアという地域には多くの作り手が暮らしている。様々な色の細い糸や太い糸を用い一つずつ手作りで刺繍されたニャンドゥティは、昨年7月にはパラグアイの無形文化国家遺産として登録され、その重要性が見直されてきている。しかしその一方で、ニャンドゥティの作り手の後継者不足とその原因にもなる低収入の問題を抱えている。その問題解決の一つの方法として、私たちはパラグアイに住むニャンドゥティの生産者から直接商品を買い取り、日本でもこの綺麗なニャンドゥティを広めようと先輩の代から立ち上がり、研究室のみならず横浜保土ケ谷ライオンズクラブ、JICA川崎などの協力を得て、NPO法人(http://mitai-mitakunai.com/)とも連携する形で活動してきた。

大学のゼミや授業ではフェアトレードについて学び、考え、それを実践していく、そのようなプログラムである。NPOのHPにはその内容が記されているので見ていただきたい。

パラグアイSV2019:

今回の渡航では、ニャンドティの取引が行われ始めて数年が経過した生産者の女性たちに対し、彼女たちの生活にどのような変化がみられたのかをインタビューによって明らかにすること、今後日本で広めていくために何が必要であるのかをさらに模索することを目的に調査・実践活動を行った。インタビューを通して分かったのは、未だ収入面では困ることも多いが、ニャンドゥティの人気が再上昇したことや、ソーシャルネットワークの普及によりFacebookやWhatsAppというSNSを活用した活動が展開でき、注文も受けるようになったこと、その結果、ここ数年は注文が増えてきたことが明らかになった。作り手さん自身も様々な工夫を凝らし、ニャンドゥティそのものだけではなく、キーホルダーや髪飾り、筆箱にニャンドゥティを付けるなどの創意工夫を凝らすことからより買い手側にとって身近なものになるようにしている、という。

今後は、日本でのさらなる普及活動を促進するために、買って頂いた方にニャンドゥティのみならず、その背景にある作り手さんたちにも思いを馳せてもらえるようなフェアトレード実践を考えていきたい。また、初めてニャンドゥティを見る方にも興味を持ってもらえるような映像作りをしようと考えている。今回の渡航で作り手さんから感じたニャンドゥティに対する熱い思いを踏まえて、これからもニャンドゥティという美しい伝統工芸品を通してパラグアイと日本をつなげられるような活動をしていきたい。


② アグリツーリズム実践:ラ・コルメナでの
地図作り

加藤仙丈

私はアグリツーリズム実践として、パラグアイのラ・コルメナ地域で地図作りを行った。アグリツーリズムとは、農村における自然、文化、人々との交流を楽しむ滞在型の余暇活動である。環境保全や地域振興に主眼を置いた持続可能な観光のあり方であり、これまでのマスツーリズムに代わるオルタナティブ・ツーリズムとして注目されている。

活動目的は、以下の通りである。

  • 1. パラグアイの農村地域が持つ豊かな自然資源を生かしたアグリツーリズムを展開するための第一段階として、住民の方々とともに地域資源を認識すること
  • 2. 第三者である私たち学生が魅力に感じたものをマッピングすることで、住民の方々が気付かなかった地域の資源を共に発見すること

具体的な活動内容は、ラ・コルメナの地域資源をプロットした地図の作成及びラ・コルメナ観光協会との会議の2点である。地図の作成では、各学生がホームステイなどの体験を通じて魅力に感じたものを地図上にプロットしたデータをもとに、GoogleEarthを用いて作成した。観光会議では、三好崇弘氏にも一部に同行頂き、私たち学生が作った地図も用いながら地域資源の紹介をするとともに意見交換を行った。学生と住民、双方から様々な意見が出され、非常に有意義な時間となった。

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ラ・コルメナ観光協会のメンバーとの意見交換会

ラ・コルメナでの地図作りの実践から、私は地図が地域資源を可視化して共有する手段として非常に有効であると実感した。それと同時に、地図を作るという作業の難しさを感じた。どこまでの情報を地図上に載せるのか、その場での体験を地図上に表すときの適切な方法は何であるのかなど、地図作りを行う際の課題は多かった。ラ・コルメナのアグリツーリズムは始まったばかりである。今回のアグリツーリズム実践全体を通じて、様々な貴重な経験をさせていただいたことに感謝するとともに、ラ・コルメナでのアグリツーリズムがより良いものとなっていくことを願っている。

今回のプロジェクトでは地図作りの専門家である三好宗弘氏に出発前よりご指導を頂いた。この場を借りて、感謝申し上げたい。


③ 二つの国に挟まれるダブルアイデンティティ

張莉佳

パラグアイは第二次世界大戦前後にかけて移民を多く受け入れ、全国民の2.31%を移民が占めている1。それは広大な耕地を持つにもかかわらず、度重なる戦争によって国民の人口が圧倒的に減少してしまったことと関係がある。

私が興味を持ったのは、移民の子孫が持つダブルアイデンティティである。二つの国を祖国に持つ彼ら・彼女らは両国それぞれの良い面、悪い面をより深く理解し、時と場合によってそのアイデンティティを切り替える。例えば日本とパラグアイという二つの国にルーツを持つ人々は両国の文化や言語を生活に用いているが、日本にいると人間関係の冷たさに驚き、パラグアイにいるとオープンな人柄が暑苦しく鬱陶しいと感じるといった風である。そこで私は、2つの祖国を持つ立場の日系の方々の生活を追い、ダブルアイデンティティがどのような形で表れているのかを調べたいと思った。

実際に日系人の方の家にホームステイをさせていただき、生活の中から、ステイ先の方々への聞き取りや話の端々から、ダブルアイデンティティを持つ方が多いと実感した。しかしその反面、日系移住地内では日本人アイデンティティが多く存在していると感じた。また、パラグアイは移民が多い土地であることが、彼ら・彼女らのアイデンティティに大きく影響しているのではないか。

日本へ行くまでは(自分自身のことを)日本人だと思っていたのに、行ってみたら日本人が冷たく感じたと話してくれた日系パラグアイ人の方がいる。戦後日本の社会や文化をある程度保持している日系移住地で成長した日系の方々の体験と、現代の日本社会の文化が異なることからダブルアイデンティティを持つようになったのではないかと考えるに至った。


④ スラム地域「カテウラ地区」での音楽交流

奥亮介

私は、パラグアイの首都アスンシオンに位置するスラム地域カテウラにおいて、現地の小学生へのピアニカ指導と世界を旅するカテウラ楽団オーケストラ とのセッション運営を担当した。

川崎JICAボランティアの会の内藤幸彦氏を中心に集められたピアニカを私たちに寄贈して下さり、現地の小学校にはそれを持って行った。渡航前には、“It’s A Small World”の楽譜を画用紙と模造紙で作成した。実際の指導では、始めは言語の壁に苦しんだものの、子どもたちがピアニカを組み立てる前に「“やめ”と言ったら吹くのをやめる」というルールを設定したことにより、円滑に指導を進めることができた。また、日本元来の考え方である5S(整理・整頓・清掃・清潔・しつけ)を伝えるためにピアニカの片付け説明書も作成し、現地に置いてきた。

先ほど述べたカテウラ楽団とは、ゴミから再生利用した楽器を使ったオーケストラである。私たちが訪問したカテウラはパラグアイで生まれたゴミが集積する地域である。そのような地域で生まれ育った子どもたちは、楽団に所属して演奏旅行で世界中を飛び回ることによって、大きな自信を身につけている。彼ら・彼女らの演奏からはとてつもないパワーが感じられた。私は彼ら・彼女らに向けてインタビューを行う機会を頂いた。音楽によって奨学金をもらえている子どもたちもいることを知って驚いた。セッションの最後には、私が日本で作成した“世界にひとつだけの花”の楽譜を使ってセッションを行った。彼ら・彼女らの素晴らしい演奏にはとても感動した。 渡航を通して、1つ目の活動からは「教育を実践することの難しさと楽しさ」を、2つ目の活動からは「音楽のポジティブインパクト」を学ぶことができた。

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カテウラ楽団のメンバーとSVパラグアイ渡航チーム


⑤ 同地区でのサッカーを通しての
スポーツパーソンシップ教育

住山智洋

私はスラム地域であるカテウラ地区の小学校で、スポーツパーソンシップ教育プロジェクトを行った。犯罪やドラッグが蔓延するこの地域の子どもたちに、協調性や他者へのおもいやりなどを学んでもらい、精神的な成長を目指したものである。私自身、幼少期にサッカーを通してフェアプレーを学び、成長してきた。その経験を下にこの企画は生まれた。

活動内容としては先ず、大学で以下のスローガンを記したポスターを作り、パラグアイの現地で子どもたちにその内容を伝え、サッカーの試合を行った。
1.「ひとり」ではなく、「チーム」で戦う
2.仲間や審判、相手をリスペクト
3.ルールを守る
また、私は審判として試合に加わり、ファールなどを的確に判定した。

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サッカーに参加した子どもたち現地の協力組織JuvenSurメンバー

しかし試合では、予想以上に子どもたちはラフプレーに走り、私は何度も笛を吹いた。その度に子どもたちにスローガンをもう一度伝えようとするが、私のスペイン語力の不足もあり、通訳の方に頼る必要がでてきた。その結果、訳してもらう数秒の間に子どもたちの姿は消え、私のメッセージを上手く伝えることは出来なかった。その後も、男子が女子を試合から追い出したり、ルールを無視したりする行為が目立ち、結局秩序が保たれないまま、試合は終わった。

結果、スポーツパーソンシップを子どもたちに浸透させることは出来なかった。しかし、乱暴な子どもたちを見て、自身のプロジェクトの方向性自体は全く無意味なものではないことも僅かではあるが感じた。ポスターを小学校に寄贈することも出来たので、子どもたちがポスターを見て、フェアな精神に気づいていくことを期待したい。

川崎市内藤アカデミーの内藤幸彦氏からサッカーボールやウェアなどを寄付していただき、これらの道具を小学校に寄付させていただいた。子どもたちや先生方も喜んでくださり、小さい活動ではあるが継続した形で一つの支援をやり遂げることが出来たと感じている。この場を借りて内藤氏には感謝の意を表したい。

1 https://datosmacro.expansion.com/demografia/poblacion/paraguay (2020.01.31アクセス)

2 カテウラ楽団保護者会と特定非営利活動法人ミタイ・ミタクニャイ子ども基金は連携協定を締結し、共に活動を展開している。