韓国SV

都市化を続けるソウル市の特徴と課題

田中 杏輔
都市科学部 環境リスク共生学科

ソウル市に広がる都市空間は、日本のそれとはまるで異なっていた。多彩なデザインのオフィスビル、隙間なく綺麗に並んだマンション、その手前には無数の戸建て住宅。都心の所々には山林が残存しており、傾斜の多さが印象的だった。現地でのレクチャーやフィールドワークを通じて、ソウルと日本の都市の違いは、異なった風土・社会環境・歴史背景・政策方針に起因していることがわかった。異国の都市の変遷史を辿ることで、日本の身近な都市を勉強するだけでは得られない知見が身に付いた。

“都市化”は産業や経済活動の集積と促進というメリットがある一方で、地価の上昇や交通渋滞、環境汚染など様々な問題を生じさせる。ソウル市もまた例外ではなく、2010年から本格的に都市再生事業が行われるようになったことを学んだ。

今回のレポートでは、まさに現在、都市の開発から再生へと転換をみせるソウル市の都市空間の現状と課題について、その歴史背景や社会環境と結び付けながら記述したいと思う。

韓国SV2019:ソウルタワーから見たソウル駅周辺の様子

ソウルタワーから見たソウル駅周辺の様子

ソウル市の歴史

  • 1950s 終戦後、都市の開発が急速化。都市部に人が流れ込んでくる。
  • 〜1990s 住宅需要に対応すべく、多くの住宅が造られる。
  • 1990s ソウル市の人口が1,000万人を突破。1,000万人を目途に停滞し、現在に至る。
  • 2000s 都市開発に関する方針の転換
    昔:自動車が速く走れる都市が良い → 今:持続可能な都市が良い
  • 2010s〜 都市再生事業の施行
  • 現在 1990sまでに造られた古い建物が多く残存している。

ソウル市の現状

車が多い

ソウル市では3車線以上の道路が多く見られ、交通量も非常に多かった。タクシー(個人タクシーも多数)も多く走っていて、日本よりも車社会化が進んでいる印象を受けた。一方で、バスや地下鉄といった公共交通機関は非常に安価で利用できた。ただ路線数は日本と比較してもかなり少なく、都市人口に対しての供給量が少ないように感じた。

古い建物が多い

ソウル市には、近年多くのマンション団地が開発されている一方で、1990sまでに建設された戸建てやアパートが多く残存していた。その中には、屋根が破損している家、耐震・耐火基準を満たしていないものも多い。また、空き家も所々に見られた。マンション団地は供給量が追い付かず、開発が進められるのに対し、古い建物のリフォームや取り壊しは進んでいない現状。

局地的な開発

駅前や産業拠点を中心とした局地的な開発が進んでいる。開発地域では急激な不動産価格の上昇や交通渋滞、未開発地域では治安の悪化や災害に対する脆弱性の低下といった問題が生じている。また、都市部での経済格差が広がりをみせていて、開発地域の周辺の地価上昇によって、昔から住んでいる低所得層の住人が郊外へと追い出される事態が起きている。

ソウル市の課題

急速な開発によって多くの問題を抱えているソウル市の都市であるが、その背景には「昔からソウル市に住んでいる低所得層」が深く関係している。元々、ソウル市は衣服や鉄鋼の製造の中心であったが、1980s以降、IT産業が中心産業となり、従来の製造業の拠点はソウル市の郊外へと移された。しかしながら、郊外へと移ることが出来なかった中小工場などはソウル市中心部に留まり、現在では3,000を超える業態が残っている。従来の製造業を続ける層は、比較的に低所得者の割合が高い。そのため、都心部の開発が進むことによるジェントリフィケーションの加速によって、開発地域に住み続けることが出来ず、都心内部に「低所得層の密集した未開発地域」が形成されている。

この未開発地域では、大きく2つの課題がある。1つが古い建物が多く、災害への耐性が十分でない地域が多いこと。もう1つが、この地域を再開発したとしても、地価が上昇することによって元の住人は戻ってくることが出来ない。そのため、開発になかなか着手することが出来ない現状にあることである。

これらの課題を即時解決するには、この地域の住人が移動することのできる住宅団地をつくることが必要であるが、現状としてマンション供給が足りていないことや、市内の不動産価格が急上昇していることを踏まえると難しい。そのため、現在のソウル市では公的機関が介入しながら、未開発地域の再生事業を進めている。

未開発地域の再生事業

古い家屋が密集する未開発地域では、行政からの資金によって運営されている「都市再生支援センター」が中心となって再生事業を進めている。主な仕事としては、住民と行政を仲介し、意見交換の橋渡しをする役割を担ったり、地域が自立的かつ持続的に維持されていくために、自治意識を高め、地域を内発的に活性化させていくことである。

再生事業の例としては、空き家に商店を誘致したり、地域に住人が共同利用できる空間を作り、コミュニティを強化する場の形成がある。既存の財を生かしたリノベーションは、経済コストの削減と歴史的町並みの保存という観点から、非常に良い政策だと思った。しかしながら、実際に現地を訪れてみると、これらが地域に根付いている印象があまり感じられなかった。都市再生センターの介入によって改善へと動き出してはいるものの、住人の自治意識の向上なしには解決の難しい問題に感じた。

韓国SV2019:
韓国SV2019:

都市再生センターのリノベーション事業。古い建物を買収して、都市再生の事業所を設置した例

感想

現在のソウル市の抱える問題は、ソウル市の産業・歴史・社会環境が複雑に絡み合っている。日本の都市が抱える課題と似ているようで違っていて、その結果として都市空間が異なるものになっているのだとわかった。今回のSVで、ソウル市の都市史と課題を勉強したことは、今後に日本の都市や街づくりを考える上でも非常に役に立つ経験になったと思う。

今回のソウルSVの日程(2019.9.20〜2019.9.28)

  • 9/20金 ソウル市立大学生との食事会(場所:大学周辺)
    主催者:ナム・キボム教授(都市社会学科)、齊藤麻人教授(横浜国立大学)
  • 9/21土 フィールドワーク:ソウル市の都市開発とコモンズ運動(日韓通訳)
    案内者:キム・サンチョル代表(京義線共有地市民行動)
    場所:麻浦区孔德洞京義線共有地
  • 9/22日 自由行動(訪問場所:ソウル歴史博物館など)
  • 9/23月 午前:ソウル市の都市開発(英語)
    講演者:Dr. Hyun-Jung Lee(ソウル研究所)
    午後:フィールドワーク(城北区三仙洞での韓国の伝統家屋、韓屋の保存と活用)
    講演者:チョン・ギファン代表(エクト総合建築事務所)
  • 9/24火 日中:フィールドワーク(西大門区天然洞、忠峴洞の都市再生)
    場所:天然・忠峴洞都市再生支援センターおよびその一帯
    夜:講演「The Rise of Progressive Cities for Civil Democracy in Asia」
    場所:麻浦区孔德洞京義線共有地
    講演者:Professor Mike Douglass (University of Hawaii at Manoa)
  • 9/25水 講座:ソウル市の都市再生(日韓通訳)
    講演者:ナム・キボム教授(都市社会学科)
  • 9/26木 フィールドワーク:ソウル郊外の新都市における外国人労働者
    案内:ホン=エデュン氏(水源市都市研究所)
    場所:水源市
  • 9/27金 フィールドワーク:ソウル市の都市再生(都心準工業地域セウン商店街)
    案内者:ファン・ジウン教授(建築学科)
    場所:鐘路区セウン商店街一帯