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世界初の茶具をテーマにした専門博物館「茶具文物館」

市村花澄
人間文化課程 3年

茶具文物館の歴史

茶具文物館

茶具文物館

まずは茶具文物館の歴史について触れようと思う。「香港ナビ」によると、茶具文物館は1844〜46年の間に建てられたギリシャ復興様式の建築物で、香港に現存する最古の西洋式建築物の1つと言われている。もとはイギリス軍事司令官邸として使われていたが、第二次世界大戦中の1941〜45年には日本軍に占領された経歴を持つ。また羅桂祥博士が、自分の死後貴重なコレクションが分散するのは忍びないと、香港政府に寄贈を申し出たことにより、1984年から茶具文物館として使われるようになったという。

羅桂祥博士(1910‐1995年)について

マレーシア華僑だった彼は、香港の大学で学んだ後、香港で事業に成功し、現在でもスーパーやコンビニでよく見かける豆乳「維他奶」(vitasoy)を創業した人物として知られている。香港の一般家庭のために、当時高価だった牛乳の代用として、安価でたんぱく質の豊富な飲み物である豆乳を提供した。商売以外にも、市民のための募金や、文化活動を積極的に行ったと言われている。茶具文物館が建てられた経緯も踏まえると、彼の人柄の良さが一層感じられる。

展示内容

展示品は羅桂祥博士のコレクションが軸となっている。1階の常設展では中国のお茶の歴史が紹介されおり、唐の時代(618〜907年)から、近代までの茶具やお茶の飲み方、お茶の種類などについて展示されていた。また2階の特別展では、陶瓷茶具展(展示期間2016.12.07〜2017.11.06)が開かれており、茶道具香港陶器コンテスト(Tea Ware by Hong Kong Potters Competition)で入賞した作品が展示されていた。伝統的な茶具のイメージから離れた、独創的な作品が多く興味深かった。

中国の抹茶

抹茶と言えば日本の伝統的な飲み物というイメージを持っている人が多いように思うが、「お茶百科」によれば、実は中国でも宋の時代に日本の抹茶のようなお茶が飲まれていたという。緊圧茶の茶葉をすった粉末を茶碗に入れてお湯とかき混ぜて飲んでいたそうで、この頃は日本の茶道と同じような竹製の茶筅が使われていた。それらのお茶は片茶、団茶と呼ばれていた。展示室内にお茶の点て方を示したパネルがあったのも、そういう時代があったからだろう。しかし「お茶百科」によると、明の時代になるとお茶は大変動の時代を迎え、茶葉の主流が急変したという。団茶はお茶本来のおいしさを損ない、また製造に手間がかかったため、初代皇帝洪武帝が団茶禁止令を出したからだ。中国での抹茶文化は案外短命だったようだ。

お茶の点て方を示したパネル

お茶の点て方を示したパネル

作品紹介

青影茶盞連托

青影茶盞連托

これから展示品の中で特に気になったものを2つ紹介したい。

1つ目は1階に展示されていた「青影茶盞連托」だ。日本の茶道で使用したことのある天目茶碗と天目台によく似ているが、私はまだこのようなものを見たことがなかったため、どういったものか調べてみた。

竹内(2000)によると、青影茶盞連托の影青は青白磁(青みを帯びた白磁)のことである。もとは中国五大時代に越州窯系(青磁を生産していた)として出発した景徳鎮窯が、北宋初期に白磁窯となり、北宋後期から南宋時代にかけて青白磁を完成させた。また「晴山:天目茶碗」によれば、托とは茶碗の下の天目台のことを指す。以上より青影茶盞連托は、青白磁の天目台付き茶碗ということになるだろう。

一方で天目茶碗は、南宋から元時代にかけて福建省建窯や江西省吉州窯で焼かれた黒釉茶碗で、低く小さな高台があり、口縁にすっぽん口と言われるくびれのあるすり鉢型が特徴だと竹内(2000)は述べている。「茶道入門」によると、この天目茶碗は、鎌倉、室町時代に日本に伝わり、永く茶を飲むための器として上流社会で愛用されるようになったという。

二者の姿かたちは似ているが、それぞれ作られた窯や時期が異なることが分かった。

拉坯・注漿及模製陶器及瓷器

拉坯・注漿及模製陶器及瓷器

日本の茶道で天目茶碗を扱うお点前に、台子点前や貴人点前、台天目、献茶などが挙げられる。特別なお点前、正客が高貴な方である時のみ用いられるため、扱い方が普段以上に丁寧になる。推測でしかないが、茶碗の下に天目台がついている点から、青影茶盞連托も格式高いものとして扱われてきたのではなかろうか。

2つ目はこちらの作品「拉坯・注漿及模製陶器及瓷器」だ。写中国ならではの、飲茶文化を形にした作品だ。蒸し器の中に入っている肉まんをひっくり返すと湯飲みになるデザインで、とても可愛らしい。見た人が思わず微笑んでしまいそうなアイディアだ。

まとめ

私は大学のサークルで茶道を学んでいるのだが、未熟者で知識も少なく、上記の見解が正しいとは言い切れない。しかし茶道で扱ったことのある道具に似た道具を茶具文物館で見て、道具の製作された経緯について興味を持つことができたのは大きな収穫だった。調べてみて勉強になったと感じている。

茶具文物館は羅桂祥博士のコレクションだけでなく、現代の作家の作品も展示しており、新しいものも取り入れようとしている姿勢がうかがえた。

何百年も前から人々に愛され続けるお茶は、それだけに奥が深いと改めて感じた。今後も人々のお茶に対する情熱、そしてお茶の魅力が失われることはないだろう。香港に訪れたらぜひ香港歴史博物館に足を運んでいただき、お茶の世界に浸っていただきたいと思う。

参考文献