アメリカSV

共同体と歴史

根岸愛実

人々が何らかの共同体――例えば「国家」など――を作るとき、共通の「歴史」(史実に限らない)が必要だということは、既に有名な話となっている。今回のサンフランシスコ遠征では、実際に様々な共同体を見てきた。そのうちの3つについて述べたい。

コミュニティとしては、以前と比べて小さくなったジャパンタウン*5で、歴史を伝えることに力を入れて活動しているNJAHS (National Japanese American History Society) の男性は、日本人の歴史とは違う「日系アメリカ人の歴史」を伝えることの重要性を強調する。例えジャパンタウンという町がなくなろうとも、「日系人の歴史」がある限り、コミュニティはなくならないのかもしれない。

同じく移民コミュニティといえるミッション地区*2はサンフランシスコ市内の一地域で、ヒスパニック系の移民やその子孫が集まっている。このあたりの建物には、ごく普通の壁に色とりどりの絵が描かれていた。絵のモチーフはヒスパニック系移民の苦難の歴史や故郷への想いを表したものから、世界平和を訴えるものまで様々だが、どれもメッセージ性が強い。壁画紹介のツアーをしてくれた女性は身振り手振りを加えつつ、それぞれの壁画が描かれた背景や自分の解釈を語ってくれた。観光としてそこそこ有名なツアーらしく、この日も私たち以外に白人の参加者が複数。しかし、「この絵の描き手たちは、本当に何かを訴えるつもりがあるのか?もっと別の人たちに見てもらえる場所に描くべきでは?解説があったからわかったが、見ただけではメッセージは伝わらないのでは」という疑問が学生から出た。このギャップはどうすれば埋めることが出来るだろうか。歴史を語る目的や、語ることの効用についても改めて考えさせられた。

歴史を残していく人を見てきた一方で、残されたものから歴史を読み解くことについても考えさせられた。もともとネイティブアメリカンがいた地域に、入植したスペイン人が建て、後にアメリカの物となった教会、ミッション・ドロレス*3には、様々な歴史が塗り重なっている。スペイン人が建てた教会でありながら、先住民の生活様式を取り入れ、混ざり合いながら生活していた場所。それがアメリカによって上書きされていく。現在の真っ白な教会の壁は、アメリカの様式であり、スペイン時代にはカラフルだったという。

この協会は観光地化され、展示もあるが、意図的に見せられている物だけでなく、建物そのものの様式や飾られている彫刻などもまた「語っている」ということを感じた。そこから聞こえてくるのは、かつてここで生きた、今は見えない人々の共同体の声かもしれない。

注釈
  • *2 ミッション地区 サンフランシスコ市南東部のヒスパニック系移民の集まる地域。多くの建物の壁にカラフルな絵が描かれ、アートの町としても知られている。ビジターセンターによる壁画紹介ツアーに参加。その後、自由行動で町を散策。
  • *3 ミッション・ドロレス教会 サンフランシスコでもっとも古い教会として知られる。1770年代、カリフォルニア州がスペイン領の時代に建てられたカトリック教会。UCSCの教授による解説・案内を受けつつ自由見学。
  • *5 ジャパンタウン パシフィックハイツの南に位置するジャパンタウン。1968年の開設以来、ベイエリア周辺にすむ日系人の文化的中心となっている。ジャパンタウンが主催する桜祭り、盆踊りなど四季折々のイベントは、地元の人々始め、観光客で大変の賑わいがある。五重の塔を中心に3ブロックからなるJapan Centerには、日本の本屋、CD屋、ビデオ屋、レストラン、日本のスーパーなど、日本のものなら何でも手に入る。