フィリピンSV

潜在する格差

田中萌香
教育人間科学部 人間文化課程

南北問題。先進国と発展途上国。今まで私にとって「格差」というのは国家間のものを意味することが多かった。特に日本で暮らしていると国内での格差に気づくことが難しい。今回訪れたフィリピンは国内での貧富の格差が日本に比べて大きい国である。フィリピン国内での格差を特に痛感したのは滞在4日目。私たちは午前中にソルトパヤタス*17、午後はJICA officeを訪問した。

まずはパヤタス*16について。ごみ山やスカベンジャー*15については知っていたが、実際に目にするとショックが大きかった。映像や写真で見て知っていたつもりだったごみ山は想像よりはるかに大きく、さらに驚いたのはごみの匂いだった。どんなにリアルな映像や写真からも伝わってこない、その場にいくことでしか感じられない空気や匂いが私にとって衝撃的だった。またスカベンジャーの方の家も訪問させていただいた。その家はごみ山のすぐ横にあり、作業している人の姿が見えるほど近かった。10人家族で暮らしている一家だが、スカベンジャーとして働くのはお父さんしかいない。もちろん大勢のほうが収入は増えるが、危険な仕事であるため家族がごみ山に行くことを許していないそうだ。この家の子供たちは普通に学校に通っているが、家計が苦しい家庭の中には学校から帰ってからごみ山で働く子供もいるということだった。そして午後には高層ビルが立ち並ぶマカティ*19という地区のJICAを訪れたが、午前との風景の差に唖然とした。ごみ山の近くに小さな平屋の家が並ぶパヤタスと何十階建てなのか見当もつかないほど高いビルが立ち並ぶマカティは同じ国、同じメトロマニラ*20にあるとは思えなかった。後日他のNGOでのお話の中でフィリピンへの支援は国外から援助するだけでなく国内の富裕層から貧困層に富を分配することが重要だと聞き、この2つの場所の違いが思い浮かんだ。

また私たちが滞在していた大学内には夜遅い時間にも物乞いの子供が多くいた。子供たちは大人の服を掴んだり腕をたたいたりして、手の平を差し出してきた。見知らぬ子供に手の平を差し出されて始め私は戸惑った。UP生に聞いてみるとお金をあげると煙草などを買ってしまうこともあるからあげないと言っていた。NGOを訪問して話を聞き、本を読んで勉強するのももちろんだが、やはり実際に自分の目で現状を見ることが一番大切だと思う。10日間の滞在の中で一番強く貧困について考えさせられたのは、この物乞いの子供たちだった。この経験を含め、フィリピンで学んだことや経験したことをこれからの勉強に役立てていきたいと思う。

注釈
  • *15 スカベンジャー ごみ山からリサイクルできるものを拾い集めて売ることで生計をたてる人でほとんどがごみ山の近くに住んでいる
  • *16 パヤタス ケソン市北東部に位置する地区。マニラ首都圏のゴミが捨てられる廃棄物処分場が有り、毎日膨大な廃棄物が分別なしに集められ巨大なゴミ山が形成されるに至った。日々積み重ねられていく廃棄物によってゴミ山はどんどん巨大化し、2000年にはついにゴミ山の崩落事故が発生した。500軒のバラックが下敷きとなり公式に確認された犠牲者は234人、実際には800人とも言われる犠牲者を出した。事故を受けた政府は廃棄物処分場の閉鎖を決定したが、崩壊したゴミ山の近くに新たな廃棄物処理場を作り、パヤタスの第二のゴミ山として巨大化し続けている。フィリピンには廃棄物焼却場が存在しない。 ゴミ山の写真撮影は禁じられていた。
  • *17 ソルトパヤタス パヤタス地区を中心とする貧困地区の子どもと女性を中心に教育と収入向上の支援を行っているNPO団体。子供達への奨学金援助、学習支援、ライフスキル教育や母親へのゴミ拾いに代わる新たな収入源確保のためのクロスステッチ製品の制作、販売などを行っている。貧困問題に苦しむ人々の生活の向上と貧困問題の長期的解決をその使命にしている。

    http://www.saltpayatas.com/
  • *19 マカティ マニラ都市圏を構成する都市の一つ。企業の高層ビルが立ち並び、高級住宅街や高級ショピングモールがありフィリピンのウォール街と呼ばれる副都心である。
  • *20 メトロマニラ マニラ首都圏の通称。16市と1町で構成され、東京23区よりやや大きい面積に1200万人の人が暮らしている。